ドライブ・マイ・カー見た
この映画で目を引くのは主役車の赤いサーブ 900 ターボ16、原作では黄色のコンバーティブルなので映画と小説で改変がされているが、ここは撮影用の車両が用意できなかった都合か?
今ではサーブのブランドは消滅し、マニアぐらいにしか知名度がないマイナーブランドではあるけれど、これが実にいい味を出している
サーブ元々スウェーデンの航空機メーカーの自動車部門で1990年にGMの傘下になったが、GMの経営破綻の煽りを受け経営不振に陥り2011年に破産、その後新しい経営者の元で復活し、現在はサーブの名を捨ててNEVSのブランドで細々とBEVを生産している
映画に登場した初代900は航空機メーカー時代の設計で航空機由来の技術や設計思想が一部の層にウケたが、スポーツカー専業メーカーのポルシェと同程度の生産台数しかなくマニア向けのブランドだった
日本でも当初は同様の扱いを受けていたが、80年代後半に五木寛之の作品に登場してから日本で一大ブームが沸き起こった
ドライブ・マイ・カーに出たクルマ
さて、映画の舞台は大半が広島だ。そのつながりもあってか車両協力に広島マツダがクレジットされていた。実際ワタシの確認できる範囲で演劇祭公用車のビアンテや通行車にアクセラ教習車などのマツダ車を確認できた(もっと写ってたかも?)
一つ気になったのが、演劇祭スタッフのユンスの家に止まっていた車はマツダではなく日産 ノートであったこと。何が何でもマツダ車ばかり写っていたらわざとらしすぎるので自然な車種選択といえるが、ワタシには家福の赤いサーブと没個性ぎみなユンスの白いノートが対比に見えた
左ハンドルの旧車に乗る失った男と新しめの目立たない国産車に乗る幸せな男、クルマがそのコントラストを表現する小道具として機能している
ドライブ・マイ・カーに出たクルマ
長くなってきたのでここらへんで最後
韓国でのラストシーンではショッピングモールの駐車場が燃料電池車のヒョンデ ネッソで埋め尽くされていて若干のおぞましさを感じた
エンドクレジットにはヒョンデが表記されていたので恐らくは日本でのプロモーションのために登場させたと思われるが、広いショッピングモールの駐車場が同一車種の燃料電池車で埋め尽くされているのは不自然すぎる。マーケティング意識が強すぎてドン引きした
実際の韓国では水素ステーションの少なさや燃料価格が高額なこともあって自家用車で燃料電池車の普及は進んでいない
クルマの宣伝をしたいなら同じクルマを何台も並べる不自然なシーンよりも一台のクルマを何度もモブとして登場させたりする方がよっぽど効果的でノイズになり難いと思うのだが……
演劇祭の公用車にネッソを使っても良かった気がする
とにかく、クルマの描写が光るこの映画で唯一残念なシーンだった
ドライブ・マイ・カーに出たクルマ
主人公の家福は特別自動車マニアという風ではないけれど、愛車には移動のアシ以上の道具として特別な意味を見出している、そう考えると航空機由来の人間工学に基づいた設計で道具としての良さを評価されていたサーブを愛車に選んだのにはそれなりの必然性が感じられる
それにサーブ 900のトレードマークと言える空力重視の特徴的なボディーラインは映像的なインパクトは抜群であるし、時代遅れながらも大切に長年乗られてきた道具という他車とのギャップが際立つ。
また、原作ではコンバーティブルであるが映画では3ドアのクローズドボディである点も丁度良かった。派手な色のオープンカーはどうにも遊び人感がしてしまって、妻を失った中年男の哀愁をぶち壊してしまう気がするのだ。それに、家福を演じる西島秀俊には黄色のオープンカーはそもそも似合わないと思う。しかし、3ドアではなく5ドアの方がフォーマル感があって良かったのではないかとも思ったが、娘を失って妻との二人暮らしには丁度良い3ドアを選んだと考えれば納得できる。もしかするとサーブに乗り換える以前の家福家の車は国産ファミリーカーだったのかもしれない