「遺書がもし、生まれ変わった私や、これから生まれてくる私への、今の私からのメッセージなのだとしたら、こう言いたい。
「人生で一度、あなたはちゃんと報われた。これからどんなことが起こるかはわからないけれど、それで構わないと思っている。あなたはもう眠るときに恐れていない。過去の思い出だけを選んで布団に入るのではなく、今日受けた温かさの残滓、明日会う人、明日やることへの期待と充実感に満たされて眠ることができる。
完全な安心感を知った。人と分かち合い、理解され、思いやられ、推しはかられ、ただ幸せを願われることがあった。あなたのいのちは、人と通ったのだ。
あなたは一度、ちゃんと迎えられた。だから安心して、どうかただ安心して、受け入れられたこと、通じ合ったこと、そのことだけを記憶に溶かして、もう一度、この世界に生まれてきてほしい」
安達茉莉子『毛布』」