なんでも検閲だと思ったらだめだよ 

まず日本国憲法における人権としての「検閲の禁止」は「行政権による言論の内容を理由にした事前審査と審査の結果として発表自体を許さないもの」という明確な定義がされていて,この意味での検閲が「絶対的に」禁止されるというのが判例の到達点だし,通説もそうなっている。
この点異説をとなえる人はいるけど,結果の妥当性のために,たいていは「絶対的に禁止」の例外を認めてしまうので,おかしいだろ!って通説判例から批判されている。

したがって日本国憲法における人権としての「検閲の禁止」という場合の検閲には,例えば青少年保護育成条例に基づく有害図書の指定は含まれないし(大人であれば買える),名誉棄損があった場合に,損害賠償を命ずるとか回収を命ずるとか,販売の事前差止めを命ずるなんてえのも検閲ではない(司法権によるものは検閲ではない)。まして,例えばとある国際法学者が原稿を出版社に持ち込んで出版を断られても,出版社による検閲とはならないわけだ。

じゃあ,憲法の人権でいう検閲の禁止以外での検閲って用法が許されるかというと……そりゃあ,憲法の基本的人権の保障のイメージに無料のりした戦略で,まともな議論にならないなあ……って思う。

もともとなんで検閲が絶対的に禁止されるかと言えば,行政権にそんな権力を与えてしまえば,行政権に都合の悪い言論を封殺してしまうからでしょ?そうすると行政権を是正する手段に制限がかかるわけで……。
でも一方で,他人に害をなす言論というのも現に存在しているわけで,そういう言論にはそれなりに制裁を与えないといけない。言論であれば全てが許される……なんて世界は,少なくとも自由主義の国では存在していないのですよ。
なんでも検閲にしちゃうのは,「言論であれば全てが許される」のを目指していることになっちゃうので,まあまともな議論にはならないだろうな……。
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@SASAKIMasatoHKD 私企業に対して特定の通信を遮断する行政からの "お願い" についてはどう思いますか? (各種DNSブロッキング等 (上記構成要件を満たしてないとは感じている))

@hadsn まず間違いなく検閲には当たらないですね。特定の通信とは言うものの,その特定の通信の特定基準もしくは判断基準が内容を理由にしなければそもそも検閲ではないです。そしてたいていは検閲禁止と同じ条文の憲法21条2項後段の「通信の秘密は,これを侵してはならない」の問題になりそうです。ちなみにこっちは絶対禁止ではないです。
次にこの問題は端的に言えば「行政指導」の問題です。まず行政からの「お願い」が私企業の権利を制限しもしくは義務を科すようであれば,行政法上の「処分」にあたるので,その正否は行政訴訟で争うことになります。仮に処分にあたらない「お願い」だとすれば,それは「行政指導」ということになります。一般的にその行政庁に与えられた権限内であることが要求されますし,しかも,権利義務を制限したり,行政指導に従わないことを理由に不利益を与えたりすれば,行政手続法によって是正を求めることができます。(参照 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/gyoukan/kanri/tetsuzukihou/faq.html )(その前提として行政指導の書面化を求めることができます。)ちなみに憲法21条2項後段の通信の秘密の保護については,電気通信事業者には,電気通信事業法で同じ趣旨の定めがしてあるので,私企業の側にも義務となります。(余談だけど,だから分散型BBSの管理人が「うちは電気通信事業者だ」と言って届け出ているのを見ていると,「おまいら通信の秘密を絶対に守る覚悟があるのか?」って不安になる。)
ということで,私企業の側はお願いを断っても何も怖いことはないんだけど……。
それとは別に私企業の側がお願いに賛同することはあり得るし,それは私企業側の判断だから第三者があれこれ言うのはそれは違うだろうと思うわけです。
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