「HERMES(エルメス)というラグジュアリーブランドがある。ロゴを良く見ると今でもその名残をとどめているが、元々は貴族のために馬具を作るのが、このブランドの使命であり、存在理由であった。しかし、20世紀初頭、「自動車」というテクノロジーが隆盛し、「馬具」メーカーとしてのエルメスは、大げさに言えば、存亡の危機に立たされた。しかし、当時のエルメスの経営陣は優れて聡明だった。自動車というテクノロジーが「乗馬」「馬車」という文化を駆逐していくこと単に嘆き悲しんではいなかった。現代の経営戦略論風に言えば、自社のコアコンピタンスを「馬具作り」でなく、超高品質に革製品をデザインし、加工するスキルと捉え、見事に革の鞄をコアにしたハイエンドのブランドとしてドメインの再定義に成功したのである。今、書店業界に(そして、書店だけでなく、おそらく紙の出版業界にも)求められている変化は、このエルメスが果たしたような「自己革新」ではないだろうか。」