「結論から言うと、彼はソファの下で死んだ。 夜の九時頃までは家族の膝の上にいた。でも、それから普段彼がしない行動をした。「ここは違う、ここも違う」という感じの悲しそうな声で鳴くのだ。そのたびに、TVの後ろなど、いろんな場所へ猫を連れて歩いた。やがて、ソファの下に潜り込んでしまった。「寒いから出ておいで」と声をかけても出てこない。普段は寒いところなんて好きじゃないのに、最期の時が近い彼には、温かい・寒い・やわらかい・固いといった問題よりも、暗闇がもたらすしずけさの方が大切だったのだと思う。家族のこしかけるソファの下で、ぱったんぱったんと音がする。機嫌のいい時の尻尾の振り方のリズムだ。時々悲しげな声で鳴く。家族がソファの下の猫と目をあわせて、話しかける。安心するのか鳴きやむ。 翌朝、彼は寿命を終えた。 「猫は死期が迫ると姿を消す」という。僕の猫の例は一例に過ぎないけれど、僕の猫なりに「猫のやり方」で死んだように思う。身体が弱り自由が利かなくなると、安心できる暗闇があるところに行きたい。猫はそんな風に出来ているのかもしれない。」