「むかし利発だった少年が、おもむろに風呂敷包みを広げると、何冊ものノートがあり、「じつは先生。私、どうも変な事を考えてしまって。他に相談する人もいなくて困っていたけれど、もしかして先生ならわかってくださるかも、と思いまして」
そう言って見せてくれたノートの数々は、仕事を終えて毎日ひとりアパートで少しずつ書き溜めたもので、数字に混ざって「甲」「乙」といった記号があり、それは今でいう「X」「Y」などの代数記号のようで、詳しく聞くと、それは二次関数の考察で、解の公式と同じ考えの数式を最後に説明してくれた。「そうですか。やっぱり先生だ。わかってくれた」
人類が何代もかけて編み出した解の公式に、彼はひとりで辿り着いていた。天才だったのだ。しかし、その公式は今ではどこの中学校でも教えているものだ。
「ありがとうございました」
教え子が帰った後、老教師は、たまらず号泣したという。」